よるのむこうに


別に変な用事で会うわけではないのに、彰久君のおかしな物言いのせいで、私はつい引かれた手を引き返してしまう。

「あれ、何?」

彼は私の態度に首をかしげた。

「は、話があっただけ、なんだけど……」

私は彼のきれいな瞳を避けるように目をそらした。
天馬にかくれて彼の友人である彰久くんに会いたい、というのは誤解を招くお願いだったかもしれない。名刺を頼りに連絡を取ったときには考えもしなかったことがぐるぐると頭の中をめぐった。

彰久君は困惑している私を気の毒に思ったのか、少し身を引いて距離を取ってくれた。

「ああ……、大丈夫。誤解はしてないよ。夏子ちゃんはあの馬鹿の彼女だ、そのへんはわきまえてるよ」

「か、彼女というか……あれなんだけど。
と、とにかくちょっと座って話したいの。急に、悪いんだけど、」


私は痛みの少ないほうの足に体重をかけて腫れた膝をかばった。
遠出をする自信がなかったので彰久君にはなるべく近場にきてもらったけれど、それでも私の足は今にも痛み始めそうだ。

まだリウマチをうまくやり過ごして、動けるときに動くというコツがつかめていないのだ。でも、動かなければ関節が固まってしまう。
自分の体だというのに、今の私の体は本当に扱いが難しい。

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