よるのむこうに
「ここ、オーガニックサンドが有名なんだよ。俺は天馬と違って一応使いまわしの油と添加物には気をつけてるからここにはよく来るんだ。オーガニックだけでなく糖質制限食もあるしね」
彰久くんはそう説明しながら席に着くと、長すぎる足をもてあますように窓のほうへ伸ばした。
そんな姿を改めて見ると、やはり彼もモデルなのだと痛感する。スタイルがいいのはもちろんのことだが、ほっそりと長い指の動きや目線の動かし方にどこか育ちのよさが漂っていて、自然と目がひきつけられる。
しばらく彼に見とれていると、彼は私の目をまっすぐに見つめて、まるで何もかも見透かしたかのような余裕のにじんだ笑みを浮かべる。
私は気恥ずかしくなって目をそらした。このまま彰久君と見詰め合っていると精神を乗っ取られてしまいそうな気がする。
「ここ、きれいなお店だね」
ライトグレイのソファの上に紫の生地に銀粉でアラベスク模様を描いたクッションがいくつも置かれている。真っ白な漆喰の壁、シャンデリア。
少し暗い色の窓ガラスから見る大通りはまるで水槽の中から外をのぞいているような錯覚に陥ってしまう。
外国のカフェのようにオシャレな店内を見回して、私は彰久君の属するきらびやかな世界に圧倒された。
すらりとした背の高い店員さんはフランス映画のギャルソンのような粋な態度で店内を歩き回っている。
店側もこの店を選んだ彰久君も全く悪くないのだが、私のようなごく普通の一般人にとってはなんとも居心地の悪い店だ。
店内でお茶を楽しむ客の誰一人として、私のような地味な姿をしている者はない。
ここの客は皆カッティングのいい服を着ていてなぜか体型までそろえたかのようにすらりとしていた。肥満体型の人間などこの世界に存在しないかのような顔をしてお茶を楽しんでいる。