よるのむこうに
彰久君は首をかしげた。
「天馬には聞かないの」
「うん、天馬は自分のことはあまり話さないから。
もちろんこれは興味本位で聞いてるんじゃなくて……もし、私が……いなくなったら……天馬は行くアテがちゃんとあるのかなって、聞きたくて」
彰久くんはきれいに整えた眉をあげた。
「へェ……。やっと気がついたんだ。
ここに天馬よりもずっといい男がいるってこと」
彼は少しテーブル側に身を乗り出して甘く囁いた。爽やかなシトラスの香りが彼の髪から香った。
「いや冗談じゃなくて。
ちょっと……事情があって。関東を離れることになりそうなんだ。
お互い仕事のこともあるから当たり前だけど天馬は連れて行けないのね。それでちょっと困ってて」
「……ふうん。そういうこと。
あるよ、あいつの行くところ。
俺のマンションも部屋だけはあるし、あいつの実家は神奈川だから電車さえあればいつでも帰れるはず。友達もいないわけじゃないし、あいつはあんなだし長続きすることもめったにないけど一応もてるから、女の子を引っかければその日の宿には事欠かない。
ただ、あいつが宿に困った時、俺のところや実家を大人しく訪ねてくるかっていうと俺じゃわからないね」
「そっか……」
馬鹿なことを心配してしまったものだ。
天馬は女の子じゃない。どこにだっていけるし最悪野宿になったとしても職務質問されることはあっても襲われることはまずないだろう。
天馬は、私がいないと駄目なように見えて、案外そうでもないのだ。