よるのむこうに

こんな事を友人である彰久君に言うのはためらわれた。

けれど、今まで私が担ってきた責任を放棄するその前に天馬の近しい人に「天馬がこれから困った状況に置かれるかもしれない」ということを予告しておきたかった。
それが自分の責任だという気がしていた。


「天馬がどうするかは天馬が決めると思うけど……何かあったら……気にかけてあげてくれると嬉しいなって。友達なんだから私が言うまでもないのかもしれないけど。
こんな事頼まれて迷惑だとは思うけど、彰久君はすごくしっかりしてるから」

私はテーブルに額がつきそうなほど頭を下げた。
まったく彰久君には迷惑な話だろう。けれど……私は彰久君が迷惑に思ったとしても、それでも天馬のためにお願いしておきたかった。

そうでなければ天馬に後ろ髪を引かれて、いつまでも前を向けない気がした。



実際これは迷惑な依頼だったようで、華やかで人好きのする彰久君の美貌が次第に真顔になる。


「夏子ちゃんさ、……何かあった?
天馬よりも夏子ちゃんがヤバそうに見えるんだけど」

「えっ、」


私はしばらく返事ができなかった。
彰久君が天真ではなく私の心配をするとは思っていなかった。


自分では「ヤバそう」な状態になっている自覚が無かった。

私は思わず店の窓ガラスに映る自分に顔を寄せて自分の顔色を確かめた。
どこか変だろうか。リウマチは関節の変形を招く病気だけれど、私の場合は今のところ外からぱっと見ただけでわかる病変はないし、普通に振舞っているつもりだった。
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