よるのむこうに
天馬とちゃんとつきあえたら、この先のない関係を仕切りなおせるかも。
この二年間、そう思ったのは一度や二度じゃない。
でも私達は年も離れているし、天馬はたまにモデルをやる自称パチプロで、私は地味な高校教師だ。
職業が違えば必ずしも棲む世界が違うというものではない。職業の違う人同士のカップルは世にあふれている。でも、彼の見ている世界と私の見ている世界にかぎって言えば、その様相は大きく異なっている。
同じものを見ていても思うことは全く違う。
私達は決して話が合うわけではないのだ。
天馬は私と一緒でもほとんど話をしない。話したいこともないのだろう。
天馬はそんな私に一時的な居場所を求め、私は彼に恋人の役目を押し付けたいのかそうでないのか、いつまでも煮え切らないでいる。ズルズルと始まった関係は切れそうで切れず、そのくせ慣れてしまえば妙に居心地がいい。
彰久くんはまさか私達がちゃんと付き合っていないということは考えてもみなかったのだろう。椅子の背もたれに後頭部を預けて天井を仰いだ。
「天馬にそれ、まだ話して……ないんだよね、たぶん」
「うん、言ってどうなるって話じゃないし。
私は療養のために実家に帰りたい。東京も悪くないけど、でもやっぱり親元のほうがゆっくり休めると思う。
さっき、天馬に私を背負ってとは言えないって言ったけど……。
自分が天馬の重荷になるのがいやっていう気持ちはもちろんあるよ、でもそれだけじゃない。
あの大雑把な天馬に介護されるのは……なんていうか」