再生する
1:知ってしまう日曜日
いつも人の心を見透かしているように余裕の笑みを浮かべる店長の困った顔が見たくて、他店の店長たちにどんどんお酒を飲まされているのを、ただ黙って見ていた。
前にお酒は弱いと言っていたから、あれだけ飲まされたらべろんべろんに酔っ払って、余裕ぶっていられないだろう。
予想は半分当たりで半分はずれ。
店長は呂律が回らないほど酔っ払って、目も完全に据わっていた。
そしてふらふらとわたしの隣にやって来て、こう言ったのだった。
「青山さん、俺が酔っ払っていくのを見て楽しんでたよね。仕事ではフォローしてくれても、飲み会ではしてくれないなんてなあ」
まずい、と思った。絶対に何か要求される流れだ。
「俺が行き倒れないよう、しっかり介抱してくれるよね」
この流れで、わたしに拒否する権利なんてなかった。
酔いつぶれた他店のスタッフたちが次々とタクシーで運ばれていく。
酔っていない人たちは颯爽と電車帰宅。
それを見届けてからうちの店長、神谷さんをタクシーに押し込んだ。
神谷さんの意識はほとんどなく、運転手さんに自宅の場所を伝えることもできない。
ホテルでもわたしの部屋でも良かったけれど、ホテルだと下心が見え見えな気がするし、わたしの部屋は少し散らかっている。
それに酔いから冷めた神谷さんを自宅まで送って行くことになるなら、わたしが一人で帰るほうが楽だ。
申し訳ないけど懐を探らせてもらって、財布に入っていた免許証の住所を運転手さんに伝えた。
同じ区内に住んでいることは知っていたけれど、まさかうちから車で十分もかからない所に住んでいたとは。
タクシーに揺られているうちに、神谷さんはどんどん気分が悪くなってきたようで、マンションの前に到着する頃にはへろへろ。歩くことすら困難なくらい、お酒にも乗り物にも酔っていた。
肩を貸してゆっくりと部屋に向かう。
密着して初めて、神谷さんの身体が意外とたくましいことを知った。
あわよくば。あわよくば酔いに任せて、と考えなくもない。
神谷さんは背も高いし顔も良い。仕事もできる。人の心を見透かしているようなあの笑みは正直嫌だけれど、それを除けば完璧な人。
そんな完璧な人は、どんなキスをするのだろう。その先は……。
部屋の前につくと、神谷さんはわたしの肩を抱き寄せ、鍵を握らせる。
「か、神谷さん?」
「青山さん、覚悟はできてる?」
覚悟、というのはつまりそういうことなのだろう。
酔いに任せて、男女の関係になってしまう。
その前にシャワーを浴びてもいいだろうか。
歯も磨きたい。
わたし、今日どんな下着つけてたっけ。
そんなことを考えながら鍵を開け、照れながら笑った表情のまま、固まった。
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