再生する
せっかく片付いている洗面所を大量の衣類でいっぱいにするのは気が引けて、リビングの隅に積み重ねることにした。
ゴミをゴミ袋に詰める、衣類をまとめる、という単調な作業は簡単で、一時間もすると床が見えるようになってきた。ただし床は埃と食べかすと髪の毛だらけ。もう少し片付いたら掃除機をかけなければ。
新聞や本や郵便物は重ねてテレビボートの上に、雑貨類はゴミ山の中から出てきた小汚い段ボールに詰め込み、食器や食料品はキッチンへ。キッチンからは本やCDなど、そこにあるべきではない物を持ってきた。
その間には何度も不気味な液体や物体を踏んで、悲しい気分になった。今日もまたストッキングを脱いで裸足での作業だ。
ここで一旦掃除機をかけることにした。埃と食べかすと髪の毛のせいで、もう足の裏の汚れが限界だった。
掃除機は寝室のクロゼットに乱暴に詰め込まれていた。
本体はクロゼット内に入っているものの、ホースとノズルはベッドに向かってぴぃんと伸びていて危ない。ベッドのそばにこんな罠を仕掛けて、一体どうするつもりなんだ。
ごく一部の床に大まかに掃除機をかけて息を吐くと、神谷さんは「見違えたねえ」と爽やかな笑顔で言った。
「まだまだじゃないですか」
「でも床はちゃんと見えてるから」
「あとで隅っこや細かい埃も拭きとりたいです。雑巾はありますか?」
「ないねえ」
「じゃあモップは?」
「ないない」
「ですよね……」
片付けていて何となくわかったけれど、この部屋は色々と物が足りていない。
音が出るものはテレビだけ。時計や録画機器もなし。
キッチンには炊飯器も電子レンジも鍋もフライパンもない。調味料は皆無。
掃除用具は掃除機しかなかった。
とにかく今必要なものは掃除用具と、洗濯物をかけるハンガーや物干し竿、洗剤も要る。このままじゃ洗濯しても部屋干しさえできない。
明日ホームセンターへ行かなければ。
洗濯と床の掃除は道具が揃ってからすることにして、今日は寝室をできる限り片付けることにした。