再生する
吉木さんと一緒に駅まで歩く間、彼女は「電話の相手」についてあれこれ聞いてきた。
どうやら「散財癖のある片付けのできない男」との付き合いについて、本気で心配してくれているみたいだ。
「青山さんはその男と付き合うの?」
「え、いや、どうでしょう……」
「青山さん優しいから、多分そういうダメ男がほっとけないんだろうねぇ」
「はは……」
「あんまり優しくして調子に乗らせちゃだめだからね? つけあがるよ?」
神谷さん、散々な言われ様だ。
「年下?」
「いえ、年上です」
「何歳なの?」
「えーと、三十歳ですかね」
「えー、三十で散財癖のある片付けられない男かぁ。三十っていえば神谷店長と同い年だねぇ」
言われた瞬間、どきっとした。神谷さんのことだとは絶対にばれてはいけない。
「神谷店長とは大違い」
「あ、はは……」
何が何でもばれてはいけないというのに、わたしは上手い反応ができない。
この調子で行けば、察してしまうかもしれない。
「まあ青山さんが本気なら、私がどうこう言う権利はないんだけどね」
そう言って吉木さんは苦笑して、ふうっと白い息を吐いた。
本気かどうか。正直まだ分からない。
恩はある。あの部屋をどうにかしてあげたいとも思う。顔も性格も好きだ。
でも、部屋の片付けが終わったあと、もう一度神谷さんに告白されたとき、わたしは素直に頷くのか? それとも断って、ただの店長と店員に戻るのか?
期限の一週間まであと四日。それまでにわたしは、結論を出すことができるのか?
そのためには、あの婚姻届と指輪のことをちゃんと聞いておかなければ……。本当にそんなこと、できるのか……?