再生する
7:聞かされる土曜日
昨日のぐずついた天気から一転、土曜の朝は春を思わせるパステルカラーの空色だった。
空はこんなに美しいのに、吹く風は凶悪そのもの。自宅アパートを出た次の瞬間には、髪が激しく乱れてしまった。
今日、わたしはある決意をしていた。
神谷さんに、寝室で見つけたあの指輪と婚姻届の話を聞く。
木曜の夜に一度決意し、結局聞くことができなかった話題だ。
次の機会を待とうと思ったけれど、昨日のように元恋人や知り合いが来店したり、先約が入ってしまったら、せっかくの機会も逃しかねない。一番避けたいのは、何も聞けずすっきりしないまま約束の日が来てしまうこと。
それならやっぱり、わたしから切り出すべきなのだ。
出勤すると神谷さんはもう来ていた。なんだか疲れて見える背中に挨拶すると、振り向いた顔を見て驚いた。
目の下にくまができている。疲れて見えるのは背中だけではなかった。やっぱり何か問題があったのだろうか。こんな状態の神谷さんに、話を切り出してもいいだろうか。
それでも、わたしたちには時間がないのだ。
「あの、神谷さん、今日の夜、時間ありますか?」
「……あるけど、どうしたの?」
神谷さんが疲れた声で言う。
「ちょっと聞きたいことがあって、時間いただけたらなって」
少しの間。きっとこのタイミングで「聞きたいことが」と言えば、内容は察しがつくだろう。
断られそうなその間はわたしを不安にさせたけれど、その不安が膨らむ前に、神谷さんは頷いてくれた。
「俺も、聞きたいことがある。店だとまた誰かが戻って来るかもしれないから、場所は変えようか」
「はい……了解です」
わたしから神谷さんへの質問は明白。でも神谷さんからわたしへの質問は、全く想像がつかない。約束の日は日曜日だから、告白云々ではないだろう。じゃあ、一体何を……?
あれこれ考えてみたけれど分からないから、大人しく夜を待つことにした。