再生する
それにしても汚い部屋だ。どうやってリビングに入っていいのかすら分からないなんて。
どうして使い終わった食器をシンクに運ばないのだろう。
どうして脱いだ服を洗濯機に入れないのだろう。
どうしてゴミの収集日にゴミを出さないのだろう。
疑問は尽きないが、この惨状を見る限り神谷さんに恋人がいないことは明らかで。
でもこんな部屋に住んでいてもそれを感じさせずに、しっかり店長を勤める神谷さんは凄いと思う。
ドアの前で立ち往生していても始まらないから、とりあえず入り口付近のゴミ袋をいくつか廊下に出した。
袋にはまだスペースがあったから、恐らくゴミであろうものを詰め込み、シャツや下着も何枚かまとめた。
ようやく二歩分進むことはできたけれど、何かぬるっとしたものを踏んでしまい、ひゃあ、と情けない声が漏れた。
踏んだ。踏んでしまった。謎の物体を。
足の裏に付着しているのは黄色っぽい粘着質の何か。
その不快さにストッキングを脱ぎ、さっきまとめた神谷さんの服の上に投げ置いた。
ゴミをまとめるのは簡単だった。
市の指定ゴミ袋はどれも一杯になっておらず、ゴミの種類に応じてそこに詰め込んでいけばいいだけ。
衣服もしかり。見ればどれも使用済みだから、適当にまとめてしまえばいい。
問題は食器類。キッチンに運ぼうにも、そこまでの道はなく、背伸びして覗いたシンクには、なぜだか本やCDが入っていた。この人は本やCDを洗うのだろうか。
食器類は空いたスペースに重ねておくことにして、とりあえずドアからソファーまでの一本道を作った。
これだけですでに汗だく。コートとジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくって一息つく。
掃除や片付けは好きだし、わりと得意だと思っていたけれど、ここまでひどいとどこから手をつけていいのか分からない。
とりあえず一杯になったゴミ袋を出したいけれど、この地区のゴミ収集日は何曜日なんだろう。
携帯電話を取り出してそれを確認していると、青い顔をした神谷さんがトイレから帰還した。
そして今作ったばかりの一本道を歩き、その道のゴール、ソファーに乗った服やゴミを辺りに放り、どさりと倒れ込んだ。
枕にしているのはクッションではなくゴミ袋だけれど……。