再生する
8:すれ違う日曜日
約束の日曜日。
部屋を片付けたらもう一度告白して、その返事をすると言った月曜の朝から七日。
ゆうべはなかなか寝付けなかったせいで今朝はちょっとだけ寝坊して、少し緊張しながら出勤して、その状態が続いたまま一日を過ごした。神谷さんの一挙一動が気になって、気付けば目で追ってしまう。
まるで初恋をした中学生みたいにどきどきしっぱなし。
その動揺がみんなにも伝わったのか、吉木さんは「このあと合戦にでも行くの?」と言われ、今井さんには「警察に追われるようなことしちゃったんですか?」と心配された。
合戦に行きそうで、警察に追われているような顔ってどんな顔なんだ。
神谷さんの目の下にあったくまは、すっかり取れていた。良かった、ゆうべはちゃんと眠れたらしい。
わたしの中での答えは、まだ出ていない。
顔が好みだとか、背が高いだとか、細身に見えて意外とたくましいだとか。スタッフにもお客さんにも人気があるだとか、稼ぎも良くてわりと良いマンションに住んでいるだとか。
そういうことだけで判断してしまうのは、違う気がした。
同じ店で働くスタッフたちも、神谷さんを恰好良いと噂する他店のスタッフたちも、勿論お客さんも。誰も知らない過去の話を知ってしまったのだから、神谷さんのことをちゃんと考えて答えを出さなければ。
今ここであれこれ考えなくても、実際部屋に行けば自然に答えが出てくれる気がして、神谷さんの背中からそっと目を離した。
そして時刻は二十時を過ぎ、閉店時間を迎えた。
スタッフルームに残るのは神谷さんとわたしと吉木さんの三人。
吉木さんはパイプ椅子に座って携帯をいじっていたけれど、思い出したように顔を上げて「そういえば青山さん、例のダメ彼とはどうなったの?」と。先日口が軽いことが判明した彼女が、恐ろしいことを言い出した。
吉木さん、だめ! 吉木さんがダメ彼と呼ぶひとがここにいるから!
動揺して、神谷さんと吉木さんを交互に見ながら曖昧に笑うと、神谷さんまでもが「へえ、ダメ彼って?」と食いついてしまった。
「なんか三十歳で片付けもできない散財癖のあるひとみたいですよ。神谷店長と同い年なのに、そういう人もいるんですねえ」
吉木さんからの説明に、神谷さんは「へえ、三十で片付けもできない散財癖のある男、ねえ……」といぶかしげな表情と声色で、ゆっくりとこちらに目を向ける。それに合わせてわたしはそっぽを向いて、苦笑する。
神谷さんのこの反応。きっと吉木さんが言う人物が自分であると、気付いたのだろう。
「神谷店長のように素敵な男性からしたら、片付けもできない散財癖のある男なんて信じられませんよねえ」
吉木さんの追い討ち。神谷さんの「そうだねえ」という相槌。わたしはますます目線を戻せなくなって、どうフォローすべきか考える。
でもその必要はないと、すぐに理解した。
「その片付けもできない散財癖のある男も、少しのきっかけでこれからのことを考えて、今頃部屋の掃除をしているかもよ」
得意げにも聞こえる声で神谷さんがそう言うと、吉木さんは一瞬驚いた顔をし、そしてこちらを向いて「神谷さんも応援してるって。めげずに頑張ってね、青山さん」とガッツポーズを見せた。