再生する
そうしていたら神谷さんが隣に並び、わたしと同じように部屋を見回し、ふっと息を吐く。
「片付け、終わったよ。見違えたでしょ?」
見違えた、けれど、これはあまりにも……。何と言っていいのか、あれこれ考えたのに、やっぱり言葉が出てこない。
「ゴミも捨てて、洗濯機も毎日回して、バルコニーにも部屋にも風呂場にも干して、ちゃんと畳んだ。他の場所も見てくれる?」
促されて、無言のままキッチンへ。
もうシンクには本もCDもないし、数少ない食器はちゃんと洗って食器棚に収納されている。
でもやっぱり最小限の家電しかない。
寝室もすっかり綺麗になっていて、これなら安眠できそうだし、デスクでパソコンをいじることもできる。部屋のあちこちに点在していた本は、全て本棚に収納されたらしい。
ただしクロゼットに入りきらなかったシャツやタオルが、部屋の隅に重なり山を作っていた。
寝室だけ、ほんの少しの生活感があって、ようやく「お疲れ様でした」と。呟くように言うことができた。
「ほんと。ゴミ屋敷を作り上げたのは俺だけど、疲れたよ」
部屋の片付けを始めさせたのは、紛れもなくわたし。神谷さんもそれを受け入れ、仕事をしながらたった一週間で片付けを終わらせたけれど……。
神谷さんはどんな気持ちで、片付けていたのだろうか。
あの頃の気持ちを思い出さなかっただろうか。
寂しくなかっただろうか。
つらくなかっただろうか。
わたしはこのがらんどうの部屋を見て、こんなにつらいというのに……。
不安になってさらに鼓動が速くなり、苦しさに押しつぶされそうになっていると、神谷さんはそれを察してくれたのか「でも楽しかったよ」と。言ってくれた。
「……楽しかったんですか?」
驚いて見上げる。神谷さんは疲れた顔を緩めて、笑顔を見せていた。
「楽しかった。どんどん部屋がすっきりして、生活しやすくなっていってね。今まではほら、ゴミの山を踏んで歩いて、ゴミの中で寝ていたから。未使用のシャツや下着を探し出すのも大変だったし」
「そりゃあそうでしょうけど……」
「だから、そんなつらそうな顔しないで。片付け終わったんだから、ちゃんと告白させて」
「……」
そもそもの目的は、それだった。
だけど、本当に告白してくれるのか? 神谷さんの過去を知らないまま片付けを強要した、わたしなんかでいいのか?
何もかも、不安でたまらないんだ。
過去を知り、このがらんどうの部屋を見た後じゃあ……。