再生する
ep:とある日曜日
とある日曜日。閉店間際の店に、見知ったひとがやって来た。
ちょうど神谷さんと一緒に、本社から届いた新作ジュエリーの資料を見ていたときで、同時に顔を上げたわたしたちは、同時に「あ」と言葉を漏らした。
やって来たのはかつての恋人孝介くんと、ぱっちりした目の可愛い女の子。女の子の胸には、いつだったかこの店で買っていったジュエリー――センターストーンを星に見立てた、シトリンの可愛らしいネックレスが。
ああ、そうか。この子が孝介くんの彼女か。
彼女は照れくさそうに孝介くんの背中に隠れながら、小さな声で「こんばんは」と挨拶した。
その様子を見ると、ふたりはちゃんと仲直りして、幸せに過ごしているということが想像できた。
少し遅れていらっしゃいませを言って店内へ招き入れ、どうしたのか聞くと、孝介くんは「忘れたのかよ」と呆れた声を出した。
「結婚指輪の相談、乗ってくれるっつったべー!」
「ああ、そうだった。ごめんごめん」
そのやり取りの間に、神谷さんは結婚指輪のパンフレットを素早く集め、持って来てくれた。さすが神谷店長。仕事が早い。
「ご結婚、おめでとうございます」
そして人が良さそうな満面の笑みをふたりに向ける。
神谷さんと付き合い始めて数ヶ月。最近わたしはこの笑顔を、密かに「超絶技巧猫かぶり」と呼んでいる。
家では絶対こんな顔はしない。もっと意地悪で我が儘で甘えたで、わりと嫉妬深い。けどひとたび外に出れば、一瞬で表情を変える。
あっちでにこにこ、こっちでにこにこ。わたしの前でどんなに意地悪な顔をしていても、人を見かけた瞬間にはもう人が良さそうな笑顔に変わる。
わたしが男友だちと連絡を取ろうものなら、気付いた瞬間意地悪な顔に。まさに超絶技巧。
心配しなくてもわたしは神谷さん一筋で、文字通り朝から晩まで一緒だというのに。
同棲生活は順調。
家でも職場でも一緒というのは少し窮屈ではないだろうか、と思ったりもしたけれど、そんなことはなかった。
買い物に行ったり読書をしたり、放っておくときは放っておくし、構ってほしいときは構ってもらう。
何を言わずともお互い察して、わりと自由に暮らしている。
そんなわたしたちに負けず劣らず、孝介くんと彼女も幸せそうな顔をしていた。