再生する
「お腹の赤ちゃんの性別、もう分かった?」
指輪を選んでいるふたりに尋ねる。
すると彼女――タカちゃんが顔を上げ、照れくさそうな笑みを浮かべながら首を横に振った。
「今十六週なので、もう少ししたら分かると思います」
「そっか。楽しみだね」
「はい!」
孝介くんの話だと、妊娠が分かった途端彼女が豹変したらしいけれど。結婚が決まったら落ち着いたみたいだ。話に聞く豹変がどんなものだったか、全く想像できないくらい、素敵な笑顔をしていた。
赤ちゃんの性別が分かったら、何かプレゼントを考えなければ。
「式は挙げるんですか?」と神谷さん。
「式の予定は今のところないんです」
これも彼女が答える。孝介くんは指輪選びに夢中だ。
「でもお腹が大きくなる前に、ドレスを着て写真だけは撮っておこうって話してて」
「それはいいねぇ。うんと良いドレス着せてもらってね」
「はい!」
「ドレスも良いけど、タカちゃん白無垢も似合いそう」
「青山さんは、ミニ丈のドレスかな」
「ミニも可愛いですけど、わたしだって正統派のウェディングドレスや白無垢着たいですよ」
「ピアノの発表会でドレスの裾踏んで転んだり、成人式で草履が脱げて転んだりしたのに?」
「む、昔の話です! もうアラサーですし、きっと大丈夫ですよ!」
「ヒールの方が履き慣れてるだろうから、ドレスにしとこうな。なっ」
「そんな子どもをあやすみたいに……。意地悪しないでくださいよ……」
神谷さんとわたしのやり取りを見ていた彼女はくすくす笑って、こんなことを言い出した。
「おふたりは、式を挙げるんですか?」
彼女のこの言葉にいち早く反応したのは孝介くんだった。「えぇっ!?」と素っ頓狂な声を出し、勢いよく顔を上げ、神谷さんとわたしを交互に見る。
「え、え? 詩織と神谷さん、そうなの?」
そういえば彼にはまだ言っていなかった。
「まだ先の話だろうけどね」と神谷さん。
「付き合い始めたばかりだから」とわたし。
それでも孝介くんはわたしたちの手を取って満面の笑みで。ちょっと涙も浮かべて「おめでとう! ほんっとおめでとう! 良かったな!」と。まるで結婚が決まったかのように、祝福してくれた。
一番盛大に祝福してくれたのが、まさか孝介くんとは。
みんな、ちゃんと変われている。
ぐちゃぐちゃになって、溶けて、ほんの少しのきっかけで、再生した。
それが目に見えて分かるから、嬉しくて仕方ない。