再生する
「青山さんになら」
「え?」
「青山さんにならもっと見せてもいいよ。俺の恰好悪いところ」
顔を上げて神谷さんを見ると、彼はわたしの背中に腕を回して笑う。
「見たい?」
わたしももう良い年だ。この言葉の意味はすぐに分かったけれど、それに応えるつもりはない。
「嫌です無理です有り得ませんお断りします」
「嫌で無理で有り得ないってひどいなあ」
ひどいと言われても、こんなゴミ屋敷でするのは絶対に嫌だ。
こんなことを言い出すのなら、もうお水を飲ませるのは中止。飲みたきゃ勝手に飲んでくれ。
背中に回っていた腕を振りほどいて立ち上がると、神谷さんは「けちー」と口を尖らせた。とても三十歳には見えない。まるで駄々をこねる子どもだ。
「けちだと思っていただいても構いません」
「青山さんはまじめだねぇ」
「真面目だとか不真面目だとかそういう問題ではなくて」
「ムラムラするから抱かせてぇ」
「え」
「青山さん良いにおいするしくびれてるし意外と胸大きいし、さっきからムラムラしちゃってもう」
「神谷さん最低なこと言ってますよ」
言うと神谷さんはうーんと唸りながら眠そうに目を細めてわたしを見上げる。
「俺は、よく気がつく優しい青山さんが、ずっと前から好きだったよ。だから、きみの荷物を、この部屋に、置いて……」
静かなその告白は、尻切れトンボ。
言い終わる前に神谷さんは目を閉じ、すぐに健やかな寝息が聞こえてきた。
わたしはただ黙ってその寝顔を見つめ、ここがゴミ屋敷じゃなければ、とため息をついた。
部屋でもいい、ベランダでもいい、エレベーターの中でも構わないのに。どうしてよりにもよってゴミ屋敷で告白するのだろう。どうしていつものしっかりした姿で言ってくれなかったんだ。
でももしいつもの姿しか知らない状態で告白されていたらきっとすぐにオーケーしてしまっていただろうし、その後でこの部屋に連れて来られていたらきっとすぐに別れてしまっていただろう。
それ以前に、このタイミングで寝ないでほしい。
酔っ払いを一人残して戸締りもせずに帰るのはちょっとこわい。仕方なく中からしっかり戸締りをして、今日はこのまま一泊させてもらうことにした。このゴミ屋敷に……。