再生する
「せっかく青山さんがうちに来たんだから、せめてコーヒーくらい。インスタントのやつがどこかにあるから、ね」
どこかに、というのが恐ろしい。「どこか」というのはこのゴミの「どこか」という意味だ。
ゴミを漁ってインスタントコーヒーを見つけたとしても、ゴミだらけのキッチンでお湯を沸かせるのかは不明だ。
「帰したくないんだけど、どうしたらいい?」
そんな台詞も、ここがゴミ屋敷じゃなかったらときめいたかもしれない。
神谷さんの手がわたしの肩に置かれ、顔が近付いてくる。きっとこの先にはキスがある。
顔は好み。背も高い。細身に見えて意外とたくましい。仕事ぶりは真面目。うちの店のスタッフだけではなく、他店のスタッフにも人気。お客さんにも人気。店長で稼ぎもそこそこ。わりと良いマンションに住んでいる。
ただしそこはゴミ屋敷。
「い、嫌です、無理です、有り得ません!」
慌てて神谷さんの胸を押して、キスキャンセル。あと数秒遅れていたら、きっと流されるまま唇はくっついてしまっていただろう。
「嫌で無理で有り得ない?」
途端に神谷さんは残念そうな顔をする。
「ごめん、順番が違ったね。……俺、よく気がつく優しい青山さんが、ずっと前から好きだったよ」
そして、ゆうべと同じ言葉で告白した。
「ああ、はい、知ってます、聞きました」
「聞いた? 誰から?」
「酔っ払った神谷さんから」
「え、うそ、全然覚えてない!」
むしろ、ムラムラするから抱かせてくれ、なんて最低なことも言われている。