スケッチブック





「てめぇ、調子のってんじゃねーぞ」



 ――――うわぁ…。

 スケッチブックを抱えて、ヤバイと思った。声はツバでも飛んできそうな勢いがあった。この声は森ではなかろうか。
 三年生で、あちこち問題を起こしている有名人である。



「後輩のくせに先輩にたてつこうってか」
「図体ばっかでかくて、態度もでけぇってか」



 もう一人の声は、多分吉岡だろう。森とよくつるんでいて、同じく問題児の一人であるのだが―――。


 ヤバイ。


 出たくても出られない。今でたら、何見てんだてめぇ、ってなる。それは絶対避けたい。というか嫌だ。

 それから、後輩のくせにと言われている相手には心当たりがある。




「別にたてつこうとか、思ってないっすよ。めんどくさいし」
「あぁ?じゃあ藤谷のことはどう説明つけんだよ。てめーがチクったんじゃねぇのか」
「だから、めんどくさいんでそんなことしません」
「ってめぇ、いい加減に」




 あ、と私は油断していた。だからスケッチブックは抱き締めるように持っていたのに、ペンケースの存在をすっかり忘れていた。ペンケースは滑っていき、がしゃん音を鳴らした。

 かなり、まずい。


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