スケッチブック






 だから私はこっそり片石じゃなく、あの藤谷だと話した。お陰で藤谷はそのことがバレて、自宅謹慎となったとか。それであの吉岡や森らはご立腹らしい。あの場にいた片石が絡んでいるのではないかと踏んで。
 なんというか、どうしたらいいのか。



「…いました。ごめん」
「あ?何で謝るんだよ」
「だって、見てたのにあのとき違うって言ってないし」
「しゃーねぇだろ。普通出てこれねぇよ。あんなに人いたしな」



 近隣住民が何事かと遠巻きで見ていたり、先生方が片石に話を聞いていたり…。
 怖かったのだ。ああいう輪に入るの
が。

 だが、「怒らないの」と聞いてしまう通り、彼は怒らない。ふざけんなよ見てただろ!とかならないのだろうかと思っていたのに。意外に話が通じる相手なのかもと思ったからだ。



「なんで」
「なんでって…」



 返されてどう答えたらいいのかわからないままでいると、片石は「お前が言ってくれたんだろ」と。



「先生に、俺じゃなくて藤谷がやったって」



 何で知ってるの、と呟いてしまう。
 決して名前を出さないでと念押ししたし、あの先生が言うとは思えない。なら、なんで片石は知ってるんだ?
 片石はなんで知ってるのかいわなかった。変わりに私に置いていったのは。



「ありがとな、山口」



 控えめな笑みとお礼だった。



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