今日は恋に落ちたい
「とりあえず、今日はこのくらいにしてやるけど。再会を記念していいこと教えてやるよ」
「は?」
『とりあえず』ってなに。『今日は』ってなに。
怪訝な顔を隠そうともしない私の目の前に、彼はひらりと”ソレ“を置いた。
「なに……名刺?」
仕事上でも見慣れた、白くて四角いソレ。促されるままその名刺を手に取った私は、書いてあった文字を見て驚愕する。
「え……っな、こ、これ、」
「それ、俺の名刺。フルネーム『厚谷 純(あつや じゅん)』ていうの、俺」
笑い混じりに落とされた爆弾に、かーっと一気に体温が上昇する。
待って。だってアツヤって、下の名前だと思ってて。
けど、本当の名前はジュンって。それじゃああの夜、私は。
「すきな名前で呼べっつったら偶然俺と同じ名前呼ぶから、さすがに驚いたな。ま、これも縁だろ」
「~~~ッ」
飄々と頭上から降ってきた声に、もはや言葉も出ない。
ありえない。ほんっとーにもう、いろいろとありえない。
固まる私の手から名刺を抜き取って、彼は何やらすらすらとボールペンを走らせた。
すぐに書き終えたらしく、白くて四角いその紙を再び目の前に置かれる。
「それ、俺の連絡先。恋に落ちたい気分になったら、いつでもどうぞ?」
「ッなりません、そんなの!」
反射的にそう答えるけれど、今私の胸がどうしようもなく高鳴っているのは、たぶん驚きのせいだけじゃなくて。
そしてきっと彼には、そんな私のときめきなんてお見通しで。
連絡待ってるから、なんて甘いささやきを残して去っていく背中を、無意識に目で追いかけてしまいながら。
『今日は恋に落ちたい』と彼に伝えることになるのはもしかしたらそう遠くない未来なのかもしれないと、私は冷めかけたコーヒーに悩ましいため息を落とすのだった。
/END
「は?」
『とりあえず』ってなに。『今日は』ってなに。
怪訝な顔を隠そうともしない私の目の前に、彼はひらりと”ソレ“を置いた。
「なに……名刺?」
仕事上でも見慣れた、白くて四角いソレ。促されるままその名刺を手に取った私は、書いてあった文字を見て驚愕する。
「え……っな、こ、これ、」
「それ、俺の名刺。フルネーム『厚谷 純(あつや じゅん)』ていうの、俺」
笑い混じりに落とされた爆弾に、かーっと一気に体温が上昇する。
待って。だってアツヤって、下の名前だと思ってて。
けど、本当の名前はジュンって。それじゃああの夜、私は。
「すきな名前で呼べっつったら偶然俺と同じ名前呼ぶから、さすがに驚いたな。ま、これも縁だろ」
「~~~ッ」
飄々と頭上から降ってきた声に、もはや言葉も出ない。
ありえない。ほんっとーにもう、いろいろとありえない。
固まる私の手から名刺を抜き取って、彼は何やらすらすらとボールペンを走らせた。
すぐに書き終えたらしく、白くて四角いその紙を再び目の前に置かれる。
「それ、俺の連絡先。恋に落ちたい気分になったら、いつでもどうぞ?」
「ッなりません、そんなの!」
反射的にそう答えるけれど、今私の胸がどうしようもなく高鳴っているのは、たぶん驚きのせいだけじゃなくて。
そしてきっと彼には、そんな私のときめきなんてお見通しで。
連絡待ってるから、なんて甘いささやきを残して去っていく背中を、無意識に目で追いかけてしまいながら。
『今日は恋に落ちたい』と彼に伝えることになるのはもしかしたらそう遠くない未来なのかもしれないと、私は冷めかけたコーヒーに悩ましいため息を落とすのだった。
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