今日は恋に落ちたい
恋に落ちそうな朝
◇ ◇ ◇
いつもより少し早めに家を出て、私は機嫌よく朝の通勤路を歩く。
ここ最近帰りが遅く朝ギリギリまで寝ていたせいでずっと行けていなかったお気に入りの喫茶店に、今朝は寄れるのだ。今なら鼻歌だってうたっちゃいそうだけど、それはガマンガマン。
どうやら昔からそこに店を構えているらしいその喫茶店は、私が住むマンションから最寄り駅までの途中にある。若い客がワイワイしているというよりも古い常連が静かにコーヒーと軽食楽しんでいる姿が目につく。外観も客層も落ち着いたその佇まいが、私は好きだった。
とはいっても、私がその店に通い始めたのは今のマンションに引っ越して来たつい数ヶ月前からだ。まだまだ常連としての日は浅いけど、あそこで出されるコーヒーに惚れ込んでいる気持ちは他の常連客にだって負けていない。
出入り口のドアを開けると、カランとベルの音が鳴り響いた。
いらっしゃいませー、と店員の声が聞こえるのと同時に店内に満ちているコーヒーの香りを胸いっぱい吸い込んで、幸せに浸る。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
私が空いている席についてすぐ、お冷とおしぼりを並べてくれながら店員の女の子が訊ねてきた。
大学生のバイトさんだろうか。たぶんこのコは私の顔を覚えてくれていて、いつも同じものを注文することを知っているのだ。
「ありがとう。本日のコーヒーと、たまごサンドをお願いします」
「本日のコーヒーと、たまごサンドですね。かしこまりました、少々お待ちください」
にっこり人好きのする笑顔を浮かべ、店員が下がる。
私はそれを見届けると、テーブルに頬杖をついてすぐ右横にある窓の外へと視線を向けた。