先生。あなたはバカですか?

「昼間は…悪かったな」


「…え?」


予想もしていなかった言葉に思わず聞き返せば、2度も言わせるなとばかりに顔を顰める先生と視線がぶつかって、


「昼間だよ。砂浜で。つい…言い過ぎた」


彼のものとは思えない素直な謝罪に、さっきまでのもやもやした気持ちはどこへやら。


真っ直ぐなその視線を受け止めきれなくて、目を泳がすと、


「まぁ、あんな事言われりゃ、そりゃ簡単に許せねーわな」


先生は何を勘違いしたのやら、そう言って少し寂しそうに笑った。



別にそういうわけではないのだけど…。



確かに、ついさっきまでは昼間の事を思い出すたびに苛々して、悲しくなって、


これが全部この人のせいだと思うと、この人が憎くてたまらなかった。


だけど、それは昼間の喧嘩の内容だったり、言われた事がどうのではなくて、


––いや、確かにケツが軽いって言われたのも腹は立つのだけど。


そういう事ではなくて。


“この人”が私の事をあんな風に思っていた事。


“この人”が何を考えているのか分からない事。
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