先生。あなたはバカですか?
途端に、キュウっと音を立てる私の心臓。
でも、この人にこうやって触れられるのは嫌じゃない。
あーもうこの人は…–––
「先生。私、花織ちゃんと向き合ってきます」
「あぁ」
「…そうしたら…先生ともちゃんと向き合いたいと…思います」
先生は、一瞬目を見張ると、私に触れていた手を止める。
私は、道の脇に咲くその花を
もしかしたらもう、見付けているのかもしれない。
ただそれを見て見ぬ振りをして、道から逸れないよう必死になっていただけなのかも。
その事実を受け入れた途端、私の心の重みがスッと軽くなった気がした。
先生。
降参です。
私の創り上げた世界は、どうやらとっくに跡形もなく消えてしまっていたようです。
不思議ですね。
そう受け入れた途端に見えてきました。
道を逸れてでも手に入れたい、花ってやつが–––
先生は、綺麗な二重の目を細めて笑う。
「仕方ねぇから、もう少し待っててやるよ」
そう言って。