先生。あなたはバカですか？
「…翠ちゃん。さっきは、変な所を見せちゃってごめんね。翠ちゃんには、いずれは話そうと思ってたの。だけど、事が事だけになかなかタイミングが見付からなくて…。」


私は、花織ちゃんをそっと振り返る。


花織ちゃんは湯船の淵に座り、足だけお湯に浸かりながら伏し目がちに言葉を紡いでいる。


「それに、そう簡単には受け入れて貰えないような事をしてる自覚はあるから…。
翠ちゃんに呆れられたり、嫌われたりするのが怖かったんだ…」


「こんなの言い訳だよね」そう言って花織ちゃんは、足下のお湯に目を落としたまま力なく笑っている。


その笑顔を見て、胸の奥がチクリと痛んだ。




恋をする事は決して悪い事ではないのに。


ただ“先生と生徒”と言うだけで禁断の恋だとか何だとか言われ、堂々と恋愛も出来ない。


それどころか、普段人前では何でもないようにただの生徒の中の一人として振る舞い、この関係が悟られないように必死に隠して、偽って…。


なぜ、可愛くて、頭も良くて、強（したた）かさも兼ね備えた花織ちゃんが、



わざわざそんなに困難な恋愛を選んだのか。


やっぱり、私には不思議で仕方がない。
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