先生。あなたはバカですか?
イライラしながら過ごすこと数時間。
そして、お昼休みに入ること5分経過。
お昼休みの時間を一分一秒でも無駄にしたくなくて、私は足早に数学科準備室に向かっていた。
貴重な勉強時間を裂いて、なぜあの男の所に向かわなきゃならないのか……。
考えただけでまた腹が立ってくる。
でも、あの参考書だけは取り返さなくては。
あの参考書は、私にとって少し特別な物だった。
使うたびに少しずつ細かい書き込みをして、大事な所には付箋やマーカーで印をして、
どの参考書よりも使い古されている。
大学受験を戦い抜く上で、私にとって欠かせないパートナーだ。
母に定められた大学に行くために、ただただ勉強に明け暮れる日々の努力を、あの参考書だけがいつも肯定してくれているように感じた。
書き込みや付箋が増える度に、少しずつでも母の希望に近付いているのだと、
そう思って…。
––––「翠。お父さんのようになりたくなければ、死ぬほど勉強をしなさい」
ぼうっと頭の中でそんな声が聞こえて、私は大きく頭を振った。