先生。あなたはバカですか?
先生の香りがふわっと鼻を掠めて、
それと同時に膝の上にひらりとカーディガンが掛けられた。
「…これ…」
「掛けとけよ。一応まだ病み上がりなんだ。バスの冷房で身体冷やすな」
私の頭をクシャリと撫で、
そう言い残してさっさと自分の座席に戻っていく先生。
「きゃー!翠ちゃん!何あれ!岩田先生カッコイイね!」
隣の席で興奮を隠せない様子の花織ちゃんを尻目に、私は先生が掛けてくれたカーディガンを見詰めていた。
…何も、変わっていないわけではないのかもしれない。
私は、先生のカーディガンをキュッと握り締める。
まだ少し、先生の温もりが残っている。
必死に守ってきた“真面目”な自分。
私は、そんなものとは程遠い選択をした。
だけど、その末に得たものがこの温かくて優しいものだとしたなら…–––––
私はこの選択を、後悔する事なんてないのだろう。
「それじゃみんな!現実世界に向けて出発するぞー!」
峰山先生の言う通り、ゆっくりとバスが動き出す。
花織ちゃん越しに窓の外に目を移す。
バスの外で、3日前の私が手を振っている気がした。