先生。あなたはバカですか?
*
「おせー」
「……」
生田と彫られた表札の前。
それが埋め込まれた石塀に屈んだまま背中を預ける1人の男。
いじっていたスマホから顔を上げ、そう文句を零す岩田先生に、私はあんぐりと口を開けて驚愕していた。
「何やってるんですか!?こんなとんでもなく目立つ所で!!そんな目立つ格好で!!」
先生は、いつも着ているスーツなんかではなく、グレーのパーカーにダメージデニムのジーンズ。おまけにおしゃれなニーカーを履いて、なぜか目にはサングラス。
一瞬、玄関前に一体何者が座っているのかと、顔をしかめて目を凝らしてしまうくらいの別人がそこにいた。
とてもこの人が教師だなんて思えない。
年齢だってさほど変わらなく見えるし、間違いなくチャラい。
いや。世の中的にはこれをおしゃれと呼ぶのだろうが…。
いつもの不良教師な性格には、こちらの方がよほどよく似合ってはいるし、見る人が見ればどこぞの雑誌のモデルよりモデルらしい……
て。いやいや。
今はそんな事を言ってる場合じゃないだろうが。
「も、もし誰かに見られでもしたらどうするんですか!?」
それに、突然お母さんが帰ってくるなんて可能性をこの男は1ミリたりとも考えたりしないのだろうか。