先生。あなたはバカですか?

しかも、バッチリ先生の耳に届いてしまったようで、カウンターの向こうで包丁を持つ手を動かしながら、先生が訝しげな顔でこちらを見ている。


包丁…危ないと思うのだけど……。



「……普段、まるでいつ教師を辞めてもいいみたいに、危うい事ばかりしてるから……。てっきり教師という仕事がそんなに好きじゃないのかな……なんて、勝手に思っていたんです。だけど、こうやっていざ教えてもらったら、なんだかイメージが変わったって言うか……」


「意外にちゃんとしてた?」


ニヤリとしてくるこの男の言うことを素直に認めるのは少し癪だが、致し方ない。


事実、そう思ってしまったのだから。


ちゃんとしていた所か、あらゆる方向からの解き方を分かりやすく、私目線で説明してくれる先生の教え方に、私は今までにない感動を覚えていた。


他の先生とは何かが違う。


素直に数学というものと向き合えるように、丁寧で、だけど時に強引で、つまづいたり転んだりしたら手を差し伸べる事はせず、ただすぐ側で見守っていてくれる。


まるで、この人そのもののような教え方。
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