先生。あなたはバカですか?

「お母さん。話があるの」


私は学校から帰ってくるなり、リビングのパソコンの前で眉間にしわを寄せながら、家に持ち帰った仕事をするお母さんの前に立った。


今日は、お母さんの仕事が休みの日。


私も予備校が休みで、この時を逃したらまた何日も顔を合わせるタイミングがないだろう。


「何?」


そう言って煩わしそうにパソコンから目を上げるお母さんの気迫に、私はゴクリと唾を飲む。


今日こそ言うって決めたんだ。


ここまで来て怖気づくわけにはいかない。


「お母さんあのね。私、志望校を変えたいと思ってる」


そう伝えると、お母さんの眉がピクっと反応したのが分かった。


「どういうこと?」


「私、Y大の教育学部に行きたいの」


「Y大……?」


お母さんに自分の意見を言うのなんてどれくらいぶりだろう?


少なくともお父さんがいなくなってしまったあの日から、私がお母さんに意見する事なんて一度だってなかった。


だからかな。

私、今もの凄く緊張している。


お母さんからどういう反応が返ってくるのか、凄く凄く…怖い。


心臓がバクバクと尋常じゃない音を立てて、息だって凄く苦しい。


だけど、目をそらしちゃだめだ。


私はもう、逃げないって決めたんだから。
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