先生。あなたはバカですか?
お母さんの目を真っ直ぐと見つめる。
どれだけ真剣な気持ちか、届くよう願いを込めて。
だけど……。
「……だめよ。許さない」
「お母さん!」
お母さんは椅子から立ち上がると、自分のコートをハンガーから荒っぽく外し、それを持ってリビングを出て行こうとする。
私はそれを引きとめるように、お母さんの腕を掴んで、
「お母さん!ちゃんと話を聞いて!」
そう叫んだけれど、その手を思い切り振り払われてしまった。
「あなたは、私の言うと通りにしてればいいの!!」
そう叫ぶお母さんの顔は、酷く歪んでいる。
まるで何かに怯えているようだ。
「わたしは……お母さんの犬じゃないよ。私にだって、意思がある。お母さんの思い通りにばかりなれるわけじゃない」
私がそう言うと、お母さんの瞳が一瞬だけど揺れた気がした。
「……やっぱりあなたは、お父さんの子ね。だんだんお父さんに似てきたわ」
「……っ!」
お母さんは、吐き捨てるようにそう言うと、リビングを出て行ってしまった。
玄関を開閉する音が聞こえる。
お母さんはその日、何時になっても帰って来なかった。