先生。あなたはバカですか?

誰かにこんなに動揺させられたのは、先生以外で彼が初めてかもしれない。


そりゃ好意を持ってもらって悪い気はしない。


だけど、私は彼の気持ちには応えられない。


私なんかが“申し訳ない”って思う事すらおこがましい気がするな……。


何だか今凄く、先生に会いたいや。





––––


「……というわけなんです。だから、誰かに告げ口されたりとか、先生の身が危うくなる事はないと考えて大丈夫だと思います」


水で洗った長ねぎを差し出すと、それを先生が受け取る。


「ふーん」


何だかつまらなそうな顔でそれだけ返事をすると、先生はザックザックと音を立ててねぎを刻み始めた。


いつもの金曜日。


私は先生と晩ご飯の準備をしながら、川島君との出来事を一通り話した。


「“ふーん”てなんですか。私は凄く安心したんですよ?」


眉を寄せてそう言うと、先生は包丁を持つ手を止めて、私にじと目を向けてくる。


「気に食わねー」


「は?」


「普通諦めるだろ。お前と俺が付き合ってるって言ってんだぞ?なめられてるとしか思えねぇ」


「……」


……そこかよ。


もう、もはや視点が違過ぎる。
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