先生。あなたはバカですか?

「だけどね、例えお母さんの望む未来とは違くても、私は母さんの前から消えたりしないよ!お母さんの前からいなくなったりしない!お父さんみたいに、お母さんをひとりぼっちになんてさせない!」


お母さんの視線がまたゆっくりと私に戻ってくる。


その瞳は、驚きの色を含みながら揺れている。


「だって、私はお母さんの娘だもの!ずっとずっと、お母さんの娘だもの!!」




お母さんを真っ直ぐに見つめながら、思い出していた。


“…翠は、お父さんみたいにどこかに行ったりしないでね…。”


悲しそうな顔でそう言う母さんに、


“絶対にどこにも行かない”


と誓ったあの日の事を……。



あの時から私の気持ちは何一つ変わっていない。


変わるわけないよ。


この先だって変わらない。



だって私は、


お母さんが大好きだもの。





お母さんは、クルッと向きを変えて、私達に背を向ける。


それからお母さんの肩が、深呼吸をするように上下して……。



「勝手にしなさい」



そう言った。


「お母さ…


「でも、ひとつだけ言わせてちょうだい」

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