先生。あなたはバカですか?
「え?」


「私は、ひとりぼっちだなんて思った事、一度だってないわ」


「お母さん……」




「あなたが……いたからね」




「……っ!」


お母さんの顔は見えなかったから、その時どんな顔をしていたかは分からない。


だけど、そう言って少しだけ私を振り返ったお母さんの表情は、心無しか穏やかなものだった。


まるで、お父さんがいたあの頃のように……。



それ以上お母さんは何も言わず、振り返る事もせずに、


私達をその場に残し、家へと向かう路地の闇へと消えて行った。






「許して……もらえたのでしょうか?」


お母さんが消えていった路地を見つめながら、まだぼうっとした頭でそう問えば、


「どうだろうな?
だけど、間違いなく前には進めたんじゃねーの?お前も、お前のかーちゃんも」


先生はそう言って、私の頭にポンっと手を置く。


「すぐに全部を受け入れろってのは無理かもな。だけど、お前が今日みたいにちゃんと自分の気持ちを伝え続ければ、必ず分かり合える日が来る。もうお前の声は、しっかりかーちゃんに届いてるんだからな」
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