先生。あなたはバカですか?
医者からの帰り道、俺は医者から言われた言葉の一つ一つを思い返していた。



俺の頭の中には腫瘍があって、手術して取らなきゃゆくゆくは死ぬ。


だけど手術したとしても50%の確率で死ぬ。


例え成功したとしても、記憶がなくなるかもしれない?


それは死ぬのと何が違うんだ?



…………俺…死ぬのか…。



それなのに、恐怖一つ感じないのはなぜなんだろう?


考えても考えても、俺には死にたくない理由が見付からなかった。




そう。


この時、俺は気付いたんだ。


俺の中には何もないんだって。


楽しい思い出も、悲しい思い出も。


置いていかなければならない誰かを思う気持ちも。


大切なものも……。


親に敷かれたレールの上を歩いてきた俺の人生は失うものもなければ、得るものもなくて。


ただ単純で、つまらないものだった。


そんな人生に抗おうともせず生きてきた俺は…



空っぽだったんだ。




それに気がついた時の俺は、絶望した。


こんなつまらない人生を生きて、からっぽのまま死んでいく俺は、一体何のために生まれてきたんだって––––。






次の日。


俺は重たい体を引きずりながら出勤した。
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