先生。あなたはバカですか?



ねぇ、先生?



私、上手くさよなら言えてたかな?



私、ちゃんと笑えてたかな?









気付けば、辺りにはすっかり夜の帳が落ちていた。


土砂降りだった雨は小降りになり、代わりに気温がぐんと下がった。


濡れた体は氷のように冷たくて、指先の感覚を感じない。


さっきから、人とすれ違う度“この真冬の中信じられない!”といった顔で振り向かれるけど、そんなのも今の私はまるで気にならなかった。


……何も考えられない。考えたくない。


それなのに、先生との思い出だけは頭の中で勝手に再生され続けている。


痛くて、苦しくて、死んでしまいそう。


その痛みを誤魔化すために、この凍えるような寒さが丁度よく感じた。



朦朧とする意識の中気付けば、いつの間にか家の前の通りに差し掛かっていた。


『おせー』


「……っ!!」


いつだかの先生の声が聞こえた気がして、慌てて目を凝らすと、家の表札のある石垣の所で先生が屈んでいる姿が見えた。


私に、微笑んでいる。


「せっ……」


だけど、そんな先生の姿はすぐに蜃気楼のように消えてしまって、残ったのは胸いっぱいの寂しさだけ。
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