先生。あなたはバカですか?
ねぇ、先生?
私、上手くさよなら言えてたかな?
私、ちゃんと笑えてたかな?
*
気付けば、辺りにはすっかり夜の帳が落ちていた。
土砂降りだった雨は小降りになり、代わりに気温がぐんと下がった。
濡れた体は氷のように冷たくて、指先の感覚を感じない。
さっきから、人とすれ違う度“この真冬の中信じられない!”といった顔で振り向かれるけど、そんなのも今の私はまるで気にならなかった。
……何も考えられない。考えたくない。
それなのに、先生との思い出だけは頭の中で勝手に再生され続けている。
痛くて、苦しくて、死んでしまいそう。
その痛みを誤魔化すために、この凍えるような寒さが丁度よく感じた。
朦朧とする意識の中気付けば、いつの間にか家の前の通りに差し掛かっていた。
『おせー』
「……っ!!」
いつだかの先生の声が聞こえた気がして、慌てて目を凝らすと、家の表札のある石垣の所で先生が屈んでいる姿が見えた。
私に、微笑んでいる。
「せっ……」
だけど、そんな先生の姿はすぐに蜃気楼のように消えてしまって、残ったのは胸いっぱいの寂しさだけ。