先生。あなたはバカですか?
強引で。


俺様で。


不良教師で。



だけど、凄く温かくて。


強くて。


優しくて。


逃げ出そうとする私を、いつだって包み込んで、“大丈夫”と言って抱きしめてくれた。


先生がいたから、逃げてきた事とも向き合えた。



そして気が付けば、私の周りには大切なものだらけになっていた。



もう私は……



「…空っぽなんかじゃない…っ」



先生との思い出が、先生の言葉が、まるで走馬灯のように蘇って来て苦しい。


苦しいけど私はそれを、先生との全部を、消してしまいたいなんて思わないんだ。



「翠……」



私がもっと大人だったらよかったのかな?


先生と同じ歳で。


先生と同じ教師で。


もっともっと心の強い人間だったら…。


そうしたら先生は側にいる事を許してくれたかな?


“死ぬまで側にいてくれ”って甘えてくれたかな?


何で私は、こんなにも無力なんだろう?



その時ふと、温かいものに包まれた。


ずっとずっと遠い昔にかいだことのある懐かしい香り。


だけど覚えてる、大好きな人の香り。



「お母…さん…」



私はお母さんの腕に、包み込まれていた。
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