先生。あなたはバカですか?

“だけど”と言って、川島君が私の耳に顔を寄せる。


「男子生徒に言い寄られるんじゃないかって心配」


「……っ!」


そう耳打ちをして、川島君は真っ赤になる私に意地悪く口角を上げると、クシャリと私の頭を撫でた。




あの冬。


私と川島君は、無事志望校に合格した。


Y大の教育学部で川島君は数学の高校教諭、私は英語の高校教諭の資格を取るため、日々勉学に励んでいる。


そして、今日からついに教育実習が始まろうとしていた。


習うより慣れろ。


今まで勉強してきた事が、ようやく実践出来るこのチャンス。


楽しみじゃないわけがない。


だけど––––。




「お。懐かしい」



駅周りの中心街を抜け、緩やかな坂道を10分ほど上れば、見慣れた建物が見えてくる。


「変わってないね……」


それは、私達が3年間通った高校の校舎だった。


茶褐色の校門も、校舎まで続く桜並木の道もあの時のままだ。


「まさか、実習場所が母校とはね」


「何だか不思議な感じね」


教育実習先が母校の高校だと知った時は、正直動揺した。


高校を卒業してからは一度も足を運んではいなかったし、もう二度と訪れる事はないだろうと思っていたから……。
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