先生。あなたはバカですか?
「怖いくらい大切なんだよ。お前は俺にとって真っ白すぎて…俺なんかの人生に巻き込んで、俺なんかの色に染めるのが……怖ぇ…」


“そんな事ばっか考えてたら、気付けば3年”


そう言って先生は自嘲気味に笑った。


私にとっての3年は、あっという間なんかじゃなかった。


先生を失って、先生を想って、先生を求めていた3年間。


永遠のように感じた時間の流れ。


私の事を想い、迷ってくれていた先生も、同じように感じていたのかな?




「だけど……。お前は俺の前に現れた」



先生の目が、今度は私を真っ直ぐと見つめてくる。


細められたその目の奥には、確かに私が写っている。


「いや、これも計算だったのかもな。教育実習が母校で行われるのなんてざらだし、俺が完治してこの学校に戻ったのも、心のどっかでお前に会える日が来るかもって期待してた部分があるかもしれない。会いに行く勇気はないのに…まったく情ねぇ話だよな…」


そう言って弱々しく笑う先生。


先生にこんな部分があるなんて知らなかった。


先生はいつだって私の手を引いてずんずん前に進んでいく。


強引だけど、凛としたその背中は頼り甲斐があって。


あれよあれよと先生のペースに巻き込まれていく自分がいた。


そして、そんな先生の力強さに、いつだって私は救われていた。



だけど、今の先生は違う。



……先生にもこんなに弱い部分があったんだ。


きっとこれは、幼かった私では気付いてあげられなかった、先生の一部。
< 420 / 434 >

この作品をシェア

pagetop