先生。あなたはバカですか?
薄暗い静かな準備室の中。


先生と二人きり。



まるで、この世界には先生と私しかいないみたい。



「私は、先生の事を死ぬまで忘れる気はありませんでした。たとえ、先生が他の誰かと生涯生きていく事になったとしても…」



次から次へと溢れ出す先生への気持ちは、とどまる事を知らない。


先生の瞳に明らかに浮かぶ困惑の色も、今の私を止める術にはならない。



「言ったじゃないですか。私は、“先生を忘れない”って」



熱い涙が頬を伝う。


3年間、胸の奥底にしまっていた想いが、やっと……



「私はとっくに先生の色に染まっているんです」



やっと……解き放たれる。



「忘れた事なんて一度もありません。本当は、先生にも私の事を忘れてほしくない……



私はずっと…ずっと、先生の事が––––」



「……っ」




そう言った刹那、強く引き寄せられる体。



溶け合って、混ざり合って、一つになってしまうんじゃないかと思うくらいきつく、きつく先生が私を抱きしめた。



「俺……お前が思ってるよりどうしようもないヤツだぞ?お前に出逢うまで、本当に…本当に何もない人間だったんだ」


小さく、囁くように、先生は言葉を紡いでいく。


「俺が死んだ後、お前の記憶にカッコ悪い俺が残るのなんて嫌だった。だから、散々カッコつけてきた……」


“だけど、本当は…”



そう言って先生は名残惜しむように、私から少しだけ体を離した。
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