先生。あなたはバカですか?
「本当は……側にいてほしかったよ」



「先……」



「お前がいれば何もいらない。今も、これからも」



先生の熱い唇が落ちてきて、



先生の香りに酔わされる。



先生の熱に浮かされる。



ゆっくりと唇が離れて、縋るように先生の首に腕を回せば、先生もそれに応えるように、また私を強く抱きしめてくれた。



「……夢でも見てるみてぇだな」



「……違います。先生。これは奇跡です」




始めはきっと偶然だった。


先の見えない一本道を、


何もな一本道を、


ただひたすら歩いていた空っぽの私達が、ただ偶然に出逢っただけ。



だけど、その偶然が、沢山の奇跡のカケラを散りばめてくれた。


悲しい記憶や、辛かった記憶。


優しい記憶や、幸せな記憶。


ただ一人を愛した記憶。



無駄なものなんて一つもない。



全部が私達の“今”を作ってる。



今という時が、どんな未来に繋がっているのか分かるのだとしたら、誰も迷う事なんてないんだろう。


だけど、それじゃ意味がない。


未来が分からないからこそ、今をこんなにも愛おしいと思えるんだ。



大切だと思えるんだ。



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