“Three Years”isn't so long
ガサガサ。
ザッ、ザッ、ザッ。
ガサリ。
「…美和?」
「………」
絶対見付からないところに、隠れたつもりだった。
家から自転車で15分ほどのところにある、小さな神社。
真っ暗な境内の脇を通り過ぎ、突き当たりに広がる大きな雑木林の前で目をこらすと、ちょこんとお地蔵様が建っている。
それを目印に密集した木々の間を真っ直ぐ進むと、30秒後に視界がいきなり開けるのだ。
──雑木林が作る、天然の秘密基地。
360度すべて木に囲まれた、広い広いドーム状のその空間、夜闇を覆う枝葉の陰から三日月が私を嘲るように見下ろしていた。
つまらないことで、お母さんと大ゲンカをしたのは中1の夏休み。
覚えてる限りの汚い言葉でお母さんをさんざん罵って、当たり前のように平手打ちをくらい、逃げるように家を飛び出した。
その後のことなんて何にも考えてなくて、ただただ目の前の全て、ホントに世界中が敵になった気がして。人という人が、モノというモノが、私を否定している気がして。私は一心不乱に自転車を漕いで、なぜだかここに辿り着いた。
月明かりが辛うじて届くかどうかという、真っ暗な秘密基地。自転車を全力で漕いできた汗がようやく冷えた頃には午後11時を過ぎていて、私はだだっ広いその空間をもてあますように、夜闇の中頼りなさげな携帯電話の明かりの前で膝を抱えて座っていた。
──そんな自分の手すら見えない暗闇をかき分けて、ドンピシャで界人は私を見つけてみせたのだ。
「界人?」
「…うん」
振り返った私の目の前の界人は、ぜぇぜぇと息を切らして、ぺたりと地面に座り込んだ。
「いた…よかったぁ」
言うなり界人はズズッと鼻をすすって手の甲で目元のあたりをグイッとこすった。
「…泣いてんの?」
「な!泣いてないよっ」
バレバレの嘘を大声で叫ぶ界人。そのかん高い声が雑木林の中で『泣いてないよっ!ないよっ…!』と反響して、真っ暗な空に溶け込んでいった。
「ふっ…アハハっ」
それがなんだか可笑しくって、思わず笑ってしまった私。
今の今まで世界に抱いていたマイナスの感情ひとつひとつが、その界人の叫び声に巻き込まれて、夜空にひゅうっと解けて消えてしまったみたいだった。
──今思えば、思春期にありがちな歪な感情でしかない。世の中の全部が気に入らなくて、全部を否定してるせいで、全部に否定されてる気分になっていて。
自分のせいなのに、みんなのせいにしていた時期。そんな病気みたいな時期なのだ。
それでも、当時の私にとってはそれが全てで、色んなコトに不満があって、この世のあらゆるコトが許せなくって。そんなモヤモヤをたまたま近くに居たお母さんにぶつけて、家出した。
誰にも分かってもらえない。ひとりぼっちなんだ、私は。
そんなバカみたいな考えを、真っ正面からぶち壊してくれたのは、当時小学5年生の界人だった。
ザッ、ザッ、ザッ。
ガサリ。
「…美和?」
「………」
絶対見付からないところに、隠れたつもりだった。
家から自転車で15分ほどのところにある、小さな神社。
真っ暗な境内の脇を通り過ぎ、突き当たりに広がる大きな雑木林の前で目をこらすと、ちょこんとお地蔵様が建っている。
それを目印に密集した木々の間を真っ直ぐ進むと、30秒後に視界がいきなり開けるのだ。
──雑木林が作る、天然の秘密基地。
360度すべて木に囲まれた、広い広いドーム状のその空間、夜闇を覆う枝葉の陰から三日月が私を嘲るように見下ろしていた。
つまらないことで、お母さんと大ゲンカをしたのは中1の夏休み。
覚えてる限りの汚い言葉でお母さんをさんざん罵って、当たり前のように平手打ちをくらい、逃げるように家を飛び出した。
その後のことなんて何にも考えてなくて、ただただ目の前の全て、ホントに世界中が敵になった気がして。人という人が、モノというモノが、私を否定している気がして。私は一心不乱に自転車を漕いで、なぜだかここに辿り着いた。
月明かりが辛うじて届くかどうかという、真っ暗な秘密基地。自転車を全力で漕いできた汗がようやく冷えた頃には午後11時を過ぎていて、私はだだっ広いその空間をもてあますように、夜闇の中頼りなさげな携帯電話の明かりの前で膝を抱えて座っていた。
──そんな自分の手すら見えない暗闇をかき分けて、ドンピシャで界人は私を見つけてみせたのだ。
「界人?」
「…うん」
振り返った私の目の前の界人は、ぜぇぜぇと息を切らして、ぺたりと地面に座り込んだ。
「いた…よかったぁ」
言うなり界人はズズッと鼻をすすって手の甲で目元のあたりをグイッとこすった。
「…泣いてんの?」
「な!泣いてないよっ」
バレバレの嘘を大声で叫ぶ界人。そのかん高い声が雑木林の中で『泣いてないよっ!ないよっ…!』と反響して、真っ暗な空に溶け込んでいった。
「ふっ…アハハっ」
それがなんだか可笑しくって、思わず笑ってしまった私。
今の今まで世界に抱いていたマイナスの感情ひとつひとつが、その界人の叫び声に巻き込まれて、夜空にひゅうっと解けて消えてしまったみたいだった。
──今思えば、思春期にありがちな歪な感情でしかない。世の中の全部が気に入らなくて、全部を否定してるせいで、全部に否定されてる気分になっていて。
自分のせいなのに、みんなのせいにしていた時期。そんな病気みたいな時期なのだ。
それでも、当時の私にとってはそれが全てで、色んなコトに不満があって、この世のあらゆるコトが許せなくって。そんなモヤモヤをたまたま近くに居たお母さんにぶつけて、家出した。
誰にも分かってもらえない。ひとりぼっちなんだ、私は。
そんなバカみたいな考えを、真っ正面からぶち壊してくれたのは、当時小学5年生の界人だった。