“Three Years”isn't so long
「いらっしゃい…あァ、遠野さん。久しぶり」
「どうも」
レジカウンターでなにかの書類とにらめっこしていた店長が、私に気付いて微笑みかける。
若干古めの有線は、私が入店したときには既に流れていなかった。桜塚の街は地元ではソメイヨシノの名所でもあり、それ相応の大きさではあるけれど、ファミレスの閉店時間は都市部のそれよりやや早い。レジスターの上にある掛け時計は10時40分を指していて、おそらくラストオーダーの時間も過ぎている。
「えっと…まだいいですか?」
お客さんももうひとりもいなくって──まぁ、閉店間際でなくてもこんなことは割と日常茶飯事ではあるのだけど──少し遠慮がちに尋ねてみる。
「もちろん。何か食べる?いつものサラダとコーヒーでいいかい」
「あ、ハイ。余り物でもなんでも」
「ハハハ。では少々お待ちを」
私の失礼すぎる言動を笑い飛ばして、店長は快く私を指定席に案内してくれた。
「界人ー!Aサラダ!あと俺のコーヒー2つ持ってきて!」
私を席に案内する道すがら、厨房に向かって店長が声をかける。すると、壁を隔てた奥の厨房から、
「はぁい!」
と、快活な声が返ってきて、それから数秒と間をおかずにバタバタ!と、慌てた足音が聞こえた。
「もしかして美和来てる!?」
そう言いながら厨房から飛び出してきた界人の風貌は、相も変わらず目の覚めるような長めの金髪に、銀のピアス。
そのパンクな見た目と慌てた表情のアンバランスさに、私は思わず吹き出した。
「よ。ごめんねこんな時間に」
「イヤイヤ!すぐ作るからちょっと待ってて!Aサラダとコーヒーね!」
界人は目の前で手を勢いよくブンブンと振り回し、すぐに踵を返して厨房内に走って行った。
界人は昔と比べて随分大人になったけれど、落ち着きのなさは相変わらずだった。表情がめまぐるしく変わるところとか、ジェスチャーがムダにでかいところとか。
「まぁ、そこが彼の魅力でもあるんだけど…ってね」
「店長」
「おっと失礼。そう言いたそうな顔をしてたから、つい」
心の中を綺麗さっぱり代弁されて、無意識に顔が赤くなる。大きなメニュー表で顔を隠すと、店長はふふっ、と悪戯っぽく笑って、レジ上の掛け時計に目をやった。
「さぁて、俺は帰りますかね」
「え、いいんですか。仕事は?」
「終わった、終わった」
「さっきなんか書類見てたじゃないですか」
「あれは界人でもできると判断した」
「あ、そうですか。ていうか、私はいても良いんですか?」
「いいよいいよ、来たばっかりじゃないか。何時まででもごゆっくり。ただ帰りは危ないから界人に送ってもらうこと」
店長は人差し指を顔の前でピンと立てて、私に向かってパチンとウィンクをした。
「だから、上手くやりなよ」、とでも言いたげに。
その様子になんとなくカチンと来たので、私はさして興味もない顔をして。
「はぁい、お疲れさまでしたぁ」
と、頬杖をついて手のひらをひらひらと無造作に振りまいた。
「大きなお世話でござんす」、とでも言いたげに。
「どうも」
レジカウンターでなにかの書類とにらめっこしていた店長が、私に気付いて微笑みかける。
若干古めの有線は、私が入店したときには既に流れていなかった。桜塚の街は地元ではソメイヨシノの名所でもあり、それ相応の大きさではあるけれど、ファミレスの閉店時間は都市部のそれよりやや早い。レジスターの上にある掛け時計は10時40分を指していて、おそらくラストオーダーの時間も過ぎている。
「えっと…まだいいですか?」
お客さんももうひとりもいなくって──まぁ、閉店間際でなくてもこんなことは割と日常茶飯事ではあるのだけど──少し遠慮がちに尋ねてみる。
「もちろん。何か食べる?いつものサラダとコーヒーでいいかい」
「あ、ハイ。余り物でもなんでも」
「ハハハ。では少々お待ちを」
私の失礼すぎる言動を笑い飛ばして、店長は快く私を指定席に案内してくれた。
「界人ー!Aサラダ!あと俺のコーヒー2つ持ってきて!」
私を席に案内する道すがら、厨房に向かって店長が声をかける。すると、壁を隔てた奥の厨房から、
「はぁい!」
と、快活な声が返ってきて、それから数秒と間をおかずにバタバタ!と、慌てた足音が聞こえた。
「もしかして美和来てる!?」
そう言いながら厨房から飛び出してきた界人の風貌は、相も変わらず目の覚めるような長めの金髪に、銀のピアス。
そのパンクな見た目と慌てた表情のアンバランスさに、私は思わず吹き出した。
「よ。ごめんねこんな時間に」
「イヤイヤ!すぐ作るからちょっと待ってて!Aサラダとコーヒーね!」
界人は目の前で手を勢いよくブンブンと振り回し、すぐに踵を返して厨房内に走って行った。
界人は昔と比べて随分大人になったけれど、落ち着きのなさは相変わらずだった。表情がめまぐるしく変わるところとか、ジェスチャーがムダにでかいところとか。
「まぁ、そこが彼の魅力でもあるんだけど…ってね」
「店長」
「おっと失礼。そう言いたそうな顔をしてたから、つい」
心の中を綺麗さっぱり代弁されて、無意識に顔が赤くなる。大きなメニュー表で顔を隠すと、店長はふふっ、と悪戯っぽく笑って、レジ上の掛け時計に目をやった。
「さぁて、俺は帰りますかね」
「え、いいんですか。仕事は?」
「終わった、終わった」
「さっきなんか書類見てたじゃないですか」
「あれは界人でもできると判断した」
「あ、そうですか。ていうか、私はいても良いんですか?」
「いいよいいよ、来たばっかりじゃないか。何時まででもごゆっくり。ただ帰りは危ないから界人に送ってもらうこと」
店長は人差し指を顔の前でピンと立てて、私に向かってパチンとウィンクをした。
「だから、上手くやりなよ」、とでも言いたげに。
その様子になんとなくカチンと来たので、私はさして興味もない顔をして。
「はぁい、お疲れさまでしたぁ」
と、頬杖をついて手のひらをひらひらと無造作に振りまいた。
「大きなお世話でござんす」、とでも言いたげに。