“Three Years”isn't so long
店長の果てしない奔放さにいつも通りのため息をつくと、机の上に置いてある私の携帯がヴヴヴ、と震えた。





パッと携帯を手に取ってディスプレイを確認すると、メッセージの差出人はまたしても涼太。





“悪い、土日バイト入ってたわ”





ご丁寧に泣き顔の顔文字付きだ。





「…もう」





小さく悪態をついた私は“涼太の空いてる時でいーよ、また連絡して”と返し、再び携帯を机にタンっ、と置いた。





「はは」





その様子を見た店長が、ニコリとなにやら意味深げに笑ってみせる。





「…なんですか」

「その顔。なんていうかちょっと…イラついてない?」





私の顔を指差して、店長が言った。





唐突な指摘に、私は眉をひそめて店長の顔を見た。





「弟ですよ、今の。テレビの配線やってもらう約束、すっぽかされたんです」

「イヤイヤ、そこじゃなく」

「は?」





そんなに不機嫌な顔になっていたのかと反省しつつ、店長の妙な誤解を解こうと丁寧に説明をしたつもりの私に向かって、店長は再び「ははん」といたずらっぽく鼻で笑い、私の携帯をぴっと指差した。






「別の子の連絡を待ってる。違う?」

「……」





──店長のこういうところは、正直苦手だ。こっちが隠そうとしていることを、放っておかない。





おまけに勘がものすごくって、隠せない。ドンピシャで当てられてしまえばさすがに目も泳ぐし、二の句が継げなくなるのも仕方ない。





「店が潰れたら探偵にでもなろうかな、俺」





そして、本人にはいたって悪気がないのだ。怒るのもバカバカしくなって、決まって私の方が観念する形になる。





元々自分のタイミングで言うつもりだったのだけれど、そのタイミングを見事に奪われた私は、降参のしるしにまたため息をついた。





「…界人が、帰ってくるんですよ」

「界人が?ここに来るの?」

「そうです」





私が半ば投げやりに回答すると、店長はふうん、と唸り、納得したような表情で、自分のアゴをさすった。





「なるほど。だからかぁ」

「『だからか』って何ですか」

「遠野さん、最初はイラついてるかなって思ってたんだけど、同時に違和感もあったワケ」





独り言のようにウンウンとうなずきながら、説明を始める店長。




「何が言いたいんですか」

「まぁまぁ。今から説明するから」





その様子は、さながら難事件解決まぎわの名探偵のようで。





私は殺人事件の犯人みたいな心持ちで、店長のやたら芝居がかったセリフを、頬杖を突いて聞いていた。
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