“Three Years”isn't so long
「kaito」がギターを、弾いた話⑤
国重界人は、2つ下の幼なじみ。
小さくて弱っちい、泣き虫な界人。
7年ぶりに会った界人は、まぶしくて、キラキラしてて、逆に私の弱さが浮き彫りになるのが複雑で。
けれどもそんな界人は、こんな私を「すごい」と言い。
私はそんな界人の素直な思いに、涙を流した。
…どっちが泣き虫か、分かりゃしない。
「界人」
「んー?」
真っ暗な視界の中、「ロウソクがあったはず」と部屋中をガサガサ漁っている界人を呼ぶ。
「なんかさ、曲弾いてよ」
「え、今?」
「うん」
「ていうか、ロウソクは?」
「どうせ寝るだけだし、もういいよ」
「確かに」
数メートル先の正面でうごめいていた界人の黒い影が、私の横までのしのしと移動してくる。
「エレキしかないけど、大丈夫かなぁ」
ソファの横のスタンドに立て掛けてあるギターをガタガタと引っ張りながら、界人がぼやいた。
「どういうこと?」
「ホラ。雨がすごいでしょ。エレキってアンプ通さないと大きい音出せないわけ」
滝のような雨音が、もう随分続いている。時刻は1時を回っているから、かれこれ2時間以上だ。
「──隣座りなよ」
「うェっ!?」
私がわざとあっけらかんとした口調でそう言うと、界人は見事に予想通りのリアクションをした。
界人は本当に、からかいがいがある。
「ハハ。何、イヤなの?」
「イ、イヤじゃないけど」
「今更恥ずかしがることないでしょ。彼女でもいるなら黙っといてあげるから」
「イッ…!イナイ、イナイ!」
「あのバンドの可愛い子は?」
「え、あ、リルハ?リルハは別のバンドの人と付き合ってる」
「じゃあ安心ね。ホラ、さっさと来る」
「え、ちょっ…美和!?」
私は手さぐりで界人のジャージの裾を掴み、少し強めにぐいっと引っ張った。
…半ば諦めたように、私の隣に界人が腰を下ろす。コタツの一辺に2人だと、さすがに小狭い。
「雨の日は良い曲ができるって言ってたじゃん」
「そんなすぐ思い付くとは言ってないよ…」
腕と腕がぴったりくっつく程の距離で、界人が「もう…」とため息をつく。闇の中で、ギターがカチャリと音を鳴らした。
「作りかけの曲は、聴かせちゃいけない約束なんだけど」
「何それ。『klang』の掟みたいな?」
「そう。でも今日は特別ね。元々美和に作った曲だし」
「えっ」
──私が聞き返した時に、そこには既に「国重界人」は居なかった。
ビーン、ジャーン、と、コードを押さえながら曲を口ずさむのは、スターバンド「klang」のギタリスト、「kaito」。
顔が見えない分、その変化は顕著だった。まるで突然、隣の人が別の人物と入れ替わった感じ。
「kaito」はそのまま1分程ギターの音色を確かめるようにかき鳴らすと、ほんの一瞬界人に戻って──。
「じゃあ、いきます」
と、そう言った。
小さくて弱っちい、泣き虫な界人。
7年ぶりに会った界人は、まぶしくて、キラキラしてて、逆に私の弱さが浮き彫りになるのが複雑で。
けれどもそんな界人は、こんな私を「すごい」と言い。
私はそんな界人の素直な思いに、涙を流した。
…どっちが泣き虫か、分かりゃしない。
「界人」
「んー?」
真っ暗な視界の中、「ロウソクがあったはず」と部屋中をガサガサ漁っている界人を呼ぶ。
「なんかさ、曲弾いてよ」
「え、今?」
「うん」
「ていうか、ロウソクは?」
「どうせ寝るだけだし、もういいよ」
「確かに」
数メートル先の正面でうごめいていた界人の黒い影が、私の横までのしのしと移動してくる。
「エレキしかないけど、大丈夫かなぁ」
ソファの横のスタンドに立て掛けてあるギターをガタガタと引っ張りながら、界人がぼやいた。
「どういうこと?」
「ホラ。雨がすごいでしょ。エレキってアンプ通さないと大きい音出せないわけ」
滝のような雨音が、もう随分続いている。時刻は1時を回っているから、かれこれ2時間以上だ。
「──隣座りなよ」
「うェっ!?」
私がわざとあっけらかんとした口調でそう言うと、界人は見事に予想通りのリアクションをした。
界人は本当に、からかいがいがある。
「ハハ。何、イヤなの?」
「イ、イヤじゃないけど」
「今更恥ずかしがることないでしょ。彼女でもいるなら黙っといてあげるから」
「イッ…!イナイ、イナイ!」
「あのバンドの可愛い子は?」
「え、あ、リルハ?リルハは別のバンドの人と付き合ってる」
「じゃあ安心ね。ホラ、さっさと来る」
「え、ちょっ…美和!?」
私は手さぐりで界人のジャージの裾を掴み、少し強めにぐいっと引っ張った。
…半ば諦めたように、私の隣に界人が腰を下ろす。コタツの一辺に2人だと、さすがに小狭い。
「雨の日は良い曲ができるって言ってたじゃん」
「そんなすぐ思い付くとは言ってないよ…」
腕と腕がぴったりくっつく程の距離で、界人が「もう…」とため息をつく。闇の中で、ギターがカチャリと音を鳴らした。
「作りかけの曲は、聴かせちゃいけない約束なんだけど」
「何それ。『klang』の掟みたいな?」
「そう。でも今日は特別ね。元々美和に作った曲だし」
「えっ」
──私が聞き返した時に、そこには既に「国重界人」は居なかった。
ビーン、ジャーン、と、コードを押さえながら曲を口ずさむのは、スターバンド「klang」のギタリスト、「kaito」。
顔が見えない分、その変化は顕著だった。まるで突然、隣の人が別の人物と入れ替わった感じ。
「kaito」はそのまま1分程ギターの音色を確かめるようにかき鳴らすと、ほんの一瞬界人に戻って──。
「じゃあ、いきます」
と、そう言った。