あまの邪鬼な暴君
「神田ってバイトしてたの?しかもパン屋……」
「俺がパン屋で働いてはいけないみてぇな言い方だな。知り合いがやってる店なんだ。良い人ばっかで働き易いぞ」
にこっと軽く笑う神田くんは、自慢気に話す。
「まあ作ったりはしないし、陳列とレジ打ちだけだからわりと楽なんだ」
「レジ打ち?それってパンを売るの?」
「うん。そうだな」
冷静に考えれば当たり前のことを聞く私に、神田くんは律儀に答えてくれた。
それを凄いなぁと感心して聞いていると、神田くんが思い出したように目を開く。
「そういえば、今月末で産休に入る主婦の人がいるって聞いたな。人手が足りなくなるとも。もし興味があるなら、店に話しておこうか?」
「え!」
それに声をあげたのはみーちゃんだ。
「ある!興味めっちゃある!ね、すずもやろ?」
「ええ!私も?」
「神田!二人でってダメ?」
「ダメかどうかは言ってみねぇと分からないな……でもとりあえず話はしておく」
「おーよろしく!」
トントン拍子で進む会話に、私は何も言えずに瞬きだけを繰り返す。
「すず、楽しみだね!パン屋かぁ~いっぱい食べれそう!」
ええ、そっち!?
「私パン好きなんだよね~!」
この言葉により、数日後みーちゃんは「なんとなく買ったけど食べないからあげる」と、数人の男子クラスメイトにパンをプレゼントされることとなった。