あまの邪鬼な暴君
いっちゃんが私の一歩前を歩く。
ああ、一緒に帰るのか、と呑気に考える。
「なんで朝消えた」
いっちゃんがボソッと言葉を吐く。
「え?」
消えた?
電車でいっちゃんが他校の女の子たちとお喋りし出した時のことかな。
「ああ、えっと。邪魔だったから」
たまたま朝会えたから、なんだかんだで駅まで一緒に来ちゃったけど。
それで、そのまま同じ電車の、同じ車両に乗ることになったけど。
「邪魔だぁ?誰がだよ」
「あ、いや。私が。……だってほら、一緒に高校まで行こうとか、約束してたわけじゃないでしょ?」
それに、あの女の子にも悪いと思ったんだ。
あの子は、おそらくいっちゃんに好意を抱いていたから。
「……いつ言ったよ」
「え?」
「オレがいつ邪魔つった」
いっちゃんは眉間に思い切りシワを寄せ、普段よりずっと低い声で言う。
「いや、邪魔とは言われてないけど……」
私がそう思ったっていうか。
いっちゃんの気遣いには気付いているし。
「勝手に決めつけてんじゃねえよ、妄想女」
「え?」
「オレは邪魔なんて一言たりとも言ってねえだろ。んなのはてめぇが勝手に考えて勝手に決めつけてんだよ、バカが!」
え。
私、怒鳴られている?
違う。
「いっちゃん」
「ああ!?」
いっちゃんは怒っているというよりかは。
気に食わないことに、駄々をこねているのだ。
「どうしたの?なんか変だよ?」
何が気に入らなかったの?と、心配になって私が首をかしげると、いっちゃんは目を大きく広げた。
ああ。
そんなにおっきく開いたら、目が落ちちゃうよ。
「どうもしねーよブスボケ!てめぇマジで救いようのねぇバカだわ!バカスズ!」
すごい血相で怒鳴るいっちゃんに、これは先ほどまでの駄々とは違うのだと認識する。
私、失言しちゃったのかも。
「い、いっちゃん。ごめ……」
「謝ってんじゃねぇ!!」
「あ、うん、ごめんね。……あっ」
謝るなって言われたのに謝っちゃった。
慌てて両手で口を抑える私に、いっちゃんはますます顔を赤くした。
「バーカッ!!」
そう言って駆け出すいっちゃんを、私は黙って見送った。