あまの邪鬼な暴君
「はぁ~」
朝からいっちゃんに会うとは、とてもツイているとは言えないな。
心臓に悪い。
「大丈夫か?疲れてるな、藤咲」
「神田くん」
私がいっちゃんに言った、今日が日直というのは嘘ではない。事実である。
日直は1日交代の二人ペアでやる。
そして、今の席順でいうと、この目の前で私を心配する神田くんが私のペアなのだった。
「遅れても、俺は気にしない」
「え?」
「教室に飛び込んで来ただろう、さっき。寝坊したのか?」
どうやら神田くんは、私が走って登校してきたことを「寝坊して日直の仕事に遅れそうだったから」と勘違いしているらしい。
実際は、登校している最中に、罵倒型モテモテ幼馴染みに遭遇し、幼馴染みに好意を抱いている女の子たちとのトラブルを避けて走って来たんだけど。
「藤咲?」
「え?ん?なに?」
「聞いてなかったのか」
「ご、ごめん」
せっかくお話してくれてるのに、私ってば上の空だった。
申し訳なくて肩をすぼめる私を、神田くんは軽く笑った。
「いや、俺こそ悪かった。少し休んでいていいぞ」
や、やさしい……
神田くんは、決して外見が飛び抜けて良いというわけではない(失礼)
ただ、とても穏やかで、優しくて。
言葉使いも丁寧で、授業中もちゃんと手を挙げて問題に答えて。
「……制服、似合うよね。神田くんって」
第一ボタンまで留めたワイシャツ。しっかり結ばれたネクタイ。ズボンも腰で穿いていない。
しかし地味さや野暮ったさは無く、洗練されていた。
一切着崩していない制服。
「まるで、いっちゃんとは大違いだ……」
「ああ”?」
え。
い、いいいい?
「嘘、なんで!?」
「嘘じゃねえしなんでもクソもねーだろ、カス!」
朝会ったばっかなのに。
ほんとに、なんで。
「い………」
見開く私の目の前にいたのは、今朝会ったばかりの眉間に思いきりシワを寄せた、いっちゃんだった。