あまの邪鬼な暴君
「いー……」
ちゃん。
じゃないや。
「斉賀くん!えと、どうしたの?」
「……ああ”?」
ガンッとメンチを切られて、思わず縮こまる。
ええ。すでに怒りMAXですか……
「………えと、あの。」
やばいと思うのに、どうしていっちゃんが不機嫌なのか。
怒っている理由が分からないから、どうしていいのかも分からない。
意味もなく手を、ぱたぱた動かしていると、神田くんがやや身体を乗り出して、いっちゃんに声をかける。
「斉賀」
「ああ?」
「突然なんだ。藤咲が驚いてるだろ」
「……はあ?つーかテメーこそなんだよ、誰だてめェ」
「俺は神田───」
「いらねーよ!どうせ覚えねェから!」
「…………」
感じ悪いなぁ、いっちゃん。
これには神田くんも現を抜かしている。
それにしても、こんな機嫌がMAX悪いいっちゃんを見るのは、2ヶ月ぶりだなぁと呑気に考える。
2ヶ月前。
そう、高校の入学式。
その時は確か、入学式の帰り道、私がいっちゃんの挨拶を無視したからだった。
『汚ねえ足晒してる女がいると思えばブスズじゃねえか』
いや、挨拶っていうか罵倒かな。
それを聞こえないフリしたら叩かれた。
『目に毒だっつってんのが聞こえねぇのかよグズ!目の前でヒラヒラさせんな、ズボン履け』
………なんとも理不尽である。
「藤咲、大丈夫か?」
「え、あ、うん!」
神田くんが不安げな眼差しをするので、心配いらないと意を込めて、ニッと笑ってみる。
「ブス!」
「いたっ」
くない?
「……ッ、斉賀!」
「え?」
目に前に何かを投げられた。けど、痛みは無かった。
ソレ、は、ふわりと床に落ちてゆき。
「ハンカチ?」
ピンク色の、白い、小花柄の、ハンカチ。
ふとポケットに手を当てると、朝まであったはずの膨らみが無かった。
これ、私のだ。
「あの、いっちゃ………」
ありがとう。とお礼を言おうとしたけれど。
「騒がしい奴だな」
いっちゃんのい出てった教室に、神田くんの呟きだけが響いた。