あまの邪鬼な暴君


「すーず!なーに読んでんの?」

「あ、みーちゃん!おはよ!」



朝の日直仕事を終えた私は、HRが始まるまでの時間を読書をして過ごしていた。



「おはよ~鈴。ほーんと本好きだよね~」

「うん、面白いから。みーちゃんは読書、苦手なんだっけ?」

「ちょー苦手!どこ読んでるか分からなくなんの!」



あはは、と笑う私をみーちゃんが小突く。



「にしても。大人しくて清楚な鈴が、あの不良斉賀と幼なじみなんて、未だに信じらんないわ~」

「ちょっとみーちゃん!声おっきい……」

「ああゴメン。秘密にしてんだもんね……」



すまん!つい!と両手を合わせるみーちゃんに、苦笑いを浮かべる。



「まあなんとなーく、バレてはいるよね~」

「そうなんだよね……」



不甲斐ない。



「お、噂をすれば」



ふいっとみーちゃんが廊下に顔を向けるので、私もつられて廊下を見る。

そこには、さっきまで機嫌MAXだったいっちゃんが、男女数人と会話をしている姿があった。



「変わらずモテモテだねぇ。あたしらまだ入学して2ヶ月じゃん?なのにもう30人くらいの女の子が、コクって、フラれてんだって~」



本命がいんのかね?と、首をかしげるみーちゃん。


一方で、私はぎゅっと口をつぐんだ。



「………」



本命。

ふと、今朝に見たいっちゃんの首筋の赤い跡を思い出す。


きっと、あの跡をつけた人が、いっちゃんの………



「鈴はあーんなイケメンな幼なじみがいるのに、なーんでぼさっとしてるのよ」

「………っ、え?……いや」



ぼさっとしてるっていうか、もうダメっていうか。



「み、みーちゃんこそ。いっちゃんにアタックしないの?」

「え~むりむり。だってあたしはさ!あーゆう不良系男子より、もっと、こう、大人の余裕っていうか?包容力っていうのかね?そういう人に惹かれるんだよね~」



やっぱ年上だよ!と、にやけるみーちゃんに、周りにいたクラスの男子が落胆する。



「で、でもさ!同い年っていうのも良くない?スクールラブっていうのかな。私はちょっと憧れるなぁ?」

「ほ~!おお?さてはお主、すでに想い人がおるな??」

「え、やぁ!やめてよ、みーちゃ、ちょ、くすぐらないで!あはは!」



申してみよ~とみーちゃんが私の脇の下をくすぐるので、思わず涙目になってヒイヒイ言う。



「おっと」

「え、みーちゃん?」



急にくすぐる手が止んだので、思わずキョトンとみーちゃんを見る。



「どうしたの?」

「……睨まれちまった、ギロリって」

「え?」

「おーこわい、こわい」



あはは~と笑うみーちゃんに、よく分からないけど私も笑っておく。


みーちゃんは気さくでカッコいい女の子だ。



「みーちゃんって、カッコいいよね!」

「え、鈴はあたしを選ぶの?」

「?」

「ま、それも笑えるかも!」



そう言ってみーちゃんはご機嫌モードで自分の席に戻るので、私はHRが始まる前にトイレに行こうと席を立つ。



「………」



廊下に出れば、案外近くで、いっちゃんと女の子たちが談笑していた。



「あ……」



今、いっちゃんこっち見た。



ドキッと心臓が跳ねて、思わず顔をうつ向ける。



「…………」



いっちゃんの隣に並ぶ女の子は、みんなとっても可愛い。


綺麗な巻き髪。短いスカート。華やかなメイク。




私には無いものを、たくさん持ってる。




……トイレ、行こ。




幼なじみなんて、なんの足しにもならない。


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