あまの邪鬼な暴君
◆◇◆
うわ、雨降りそうだなぁ。
どんよりとした灰色の空を、ボーッと眺める。
一応折り畳み傘もあるけど、長い傘も持ってこっかな。
「おい!ブス!」
玄関を出たところで、いっちゃんも丁度同じタイミングだったんだろう。
いつもの暴言、もとい声をかけてきた。
「あ、いっちゃん。おはよう」
「あ、じゃねーだろグズ!」
はあ。ブスとかグズとか。
ほんとは汚い言葉なんだろうけど、いっちゃんが言うと、なんだろう。
不思議と、汚く感じないんだよなぁ。
「慣れ、かなぁ?」
「はあ?なぁにブツブツ言ってんだ?気持ちわりぃ」
「……ああ、それはちょっと傷付いた」
ははっと空笑いして、いっちゃんの隣に並ぶ。
……たまには、いいよね。
だってせっかく会えたんだし。
「いっちゃん、いつもこの時間に駅向かうの?」
「…………」
「いっちゃん?」
正面を向く彼の顔を、チラリと覗き見る。
灰色の曇天の中で、彼のハチミツみたいな金髪は際立っていた。
すっきりした顔立ちも。すべて、私の好きな
「おい」
突然、いっちゃんの顔がこちらに向く。
「うあ、!」
それに私は、慌てて顔を逸らした。
み、見惚れてた。
「てめえ、なんで……」
「な、なに?いっちゃん?」
いっちゃんの不服そうな声が聞こえたので、私は驚いて彼の顔を下から見上げる。
「……チッ、バカが」
いっちゃんはそう言って舌打ちをすると、それから私に端整な顔立ちを近づけた。
前髪にフッと息を吹き掛けられる。
「うわ!!」
え、なに。
「おれ先行く。電車やべーわ」
「あ、うん?」
え。電車………
「って、それ私もやばいじゃん!」
慌てていっちゃんの後を追う。
「は?てめぇなんでついてくんだよ!」
ええ?
なんでって、私といっちゃんってお隣さんだし
最寄りの駅も通う高校も同じだからでしょ!