飛べない人
チャイムが鳴って 先生が教室に入ってきた
皆がそれに気付き席に座る。
先生の顔は いつもより少し暗い。

「昨日は大変残念な事故がありました。皆さんも知っているでしょうけど、……紀さんが屋上から転落しました。心当たりのある方はちょっとした事でもいいので 話してくださ……」

先生が紀ちゃんの話をし始めた時。

「紀の話なんかどうでもよくなーい?あいつの事心配する奴なんていないでしょ。」

桃音ちゃんは軽い口調で先生の話をさえぎる。
どうしてそんな事言えるの?
親が権力者じゃなかったら 何にもできないくせに。
心の中で思ったけれど そんな事言えるわけなかった。

「え、えー、今日は 紗綾さんが休みなので、誰か。プリントを届けてくれる人はいませんか?」

先生は話を変え 皆に問いかける。
正直。紗綾ちゃんを好んでる人はあまりいない。
見渡す先生の目を見ないように 皆は目をそらす。
私も少し目を逸らそうとしたその時。
不運な事に先生と目が合ってしまった。

「じゃあ、すみれさんにお願いしようかしら。」

先生は私の目を見て微笑む。
目は……笑ってないけど。

「……私も行くわ。」

私は少し迷ってると 誰かがそう言う。
声の主は 予想外の人物。桃音ちゃんだった

「え、本当にいいの?」

先生も少し動揺を隠せないみたいで、目を丸くしてる。

「何?行っちゃダメなの?」

「い、いえ、全然大丈夫よ。じゃあ2人にお願いするわね。」

また先生は 冷めた笑顔を浮かべる。
本当は桃音ちゃんと行くのは気が進まなかったけど 私は仕方なく

「分かりました。」

と、返事をしたのだった。
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